「長いものに巻かれて生きる人々」の思い出

 私が20代の若手社員だった頃(90年代後半)に、「人間って長いものに巻かれて生きている」と、感じた経験について書いてみます。

 新卒入社した会社は、某大手重工系グループの子会社(社員数200人)の、建設コンサルタント企業でした(2000年代に建設不況で解散)。

 その会社には「社内労組」があり、その「労組選挙」では、過激労組系社員(中高年社員)の当選を防ぐため、定員ピッタリの人数の若手社員が立候補する仕組みになっていました。
 ※任期終了後に、管理職(課長)に昇進するのが「出世コース」
 
 労組選挙後、労組幹部が「誰が誰に投票したか」リストを作って会社側に差し出してました。
 ※投票用紙のレイアウトと筆跡から誰が投票したか分かる仕組み
 会社は、そこから、思想的要注意人物を特定・監視したり、若手には、こっそり注意していたようです。

 この労組幹部が会社に内通している事実を知ったときは、本当に驚愕しました。
 また、何十年も前から「会社への内通者」が出世する仕組みだったという点も併せて、「みんな、長いものに巻かれて生きているんだな~」と思いました。
 ※長年続いた組織ぐるみの不正行為って、無くならないものですね。

 ある時、中途入社した上司に、飲みの場で、その話(労組が会社に内通)をしたら、その上司は、「そんな事実は絶対ない!」」と全否定し「もし、そんなことやる会社なら、僕は、すぐに辞めるよ!」と言い切りました。
 
 後日、就業時間中に、その上司に、総務部長から電話があり、その内容は
 「労組選挙で○○が、過激労組系人物に投票している」、「それとなく、○○に注意してくれ」というものでした。

 電話の後、その上司が「会社は誰が誰に投票したか知っているみたいね」と、怒りを含まない、とぼけた調子で言ったので吹き出しそうにりました。辞めないんか~い(笑)。

 その時、まだ入社3年目くらいの新人だったが、不毛な社会の構図を見た気がしました。

 親会社の重工系大手企業の業務内容は、インフラ(橋梁、上下水、処理場など)、エネルギー(発電所など)、防衛分野(造船や航空機エンジン)など、顧客は、ほぼ公的機関で、大手数社が市場を寡占し、国の支援も天下りもたっぷりといった感じで、実質は、公務員、競争のない世界でした。

 グループ企業併せて数万人の従業員、大卒総合職と高卒工員、親会社、子会社といった感じのヒエラルキー社会。
 世界の○○社、従業員数万、巨大な工場敷地と施設、巨大な資本ストックに囲まれると、従業員達は、会社は神、世界のすべてのような感覚になっていました。
 市場競争もなく、本体が潰れる心配もないので、本社総合職となれば、特権階級のようにふるまい、工員側は、徒党を組み、過激労組など階級間の闘争が起ります。

 会社も対労組部署を作り、労組内に内通者を作りといった感じで、不毛で理不尽な活動に満ちています。

 すべての登場人物が、会社に依存し「長いものに巻かれて生きている」人達でした。

 私がいた会社は、上記の大手重工系グループの子会社だったので、経営管理層は、親会社からの出向者と、親会社OBで占められていて、特権階級としてふるまっていました。

 また、社内の「親会社への技術者派遣部門」に所属するおじさん達は、「親会社の工員」の気分で、本社の労組と繋がり、会社の入口で、ビラを撒いたり、労働闘争を呼び掛けたり、若手をスカウトしたり、社内労組の集会では怒声が飛び交うことが日常でした。

 会社も、それに対抗して、対労組のプロが総務に出向してきて、社内労組と内通者(出世コース)を組織し、といった活動をしていました。

 この当時、社員の過半数は建設コンサル部門所属で、行政相手のコンサル業務に従事し、技術士も多く、独立性が高い仕事をしていて、親会社の存在は関係ない感覚の人が多かったのですが、そこに、親会社社員の選民的な意識と、過激労組の茶番劇を目の前に展開されて、「俺は、何を見せられているんだ?」という気分でした。
 何も生まない生産性ゼロの世界です。

 特に我慢ならなかったのは、労組選挙に定員ピッタリに若手を立候補させたり、投票用紙に細工して、誰が誰に投票したか分かるテクニックや、選挙内容の内通といった「やましい行為」を会社への「忠誠の踏絵」として強制し、その報酬が「昇進・出世」となっていたことです。

 居心地のよい会社ではあったのですが、いつか、この会社に居れなくなる日が来る予感がしました。

 2000年代に入って、公共投資の急激な縮小が起こり、会社は、あっという間に債務超過に陥りました。
 でも、経営層は、自己評価だけ高い、「長いものに巻かれて生きてきた」だけのおじさんなので、当然、ダメダメで、唯一出来たのが「一律賃金のカット」だけです。
 その時に、過激労組系の社員達が「今こそ貯めこんだ内部留保を吐き出すべき」と賃上げを要求していて、目が点になりました。
 債務超過というのは、純資産がマイナス、つまり内部留保はゼロの状態なのですが、過激労組の言い分は、「親会社が貯めこんだお金を出せ」という主張でした。
 どこまででも、会社依存体質なんですね。
 ※実際、数年に渡って、本社がかなりのお金を出していたようです。

 しかし、市場の急激な縮小が止まらず、経営はますます悪化し、結局、子会社は解散し、親会社出身者は、本社および関連企業に引き取られました。
 ※最後まで、本社に守られ、誰も責任を問われることはありませんでした。

 現状の日本においても日本企業は、研究投資規模が過少で、国際競争に負け続けている状況なのに「企業は、賃上げのために内部留保を吐き出すべき」と主張する人々も多いですし、国債を大量発行して、補助金ばらまき政策を期待する人も多いですね。
 今も昔も、日本は変わらないな~、と思います。

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